未来のボクへ
今日は朝からやわらかい光が店内に落ちて、ほこりまできらきらしていたにゃ。おはようの声がひとつ、ふたつと集まるたびに、ボクの胸のあたりまでぽかぽかしてきて、なんだか毛並みも少しふくらんだ気がしたにゃ。こういう静かな日は、ヒゲの先まで気分がやさしくなるにゃ。
午前中、ボクは受付の近くでじっとして、通る人や椅子の音をゆっくり感じていたにゃ。猫のヒゲはね、ただの飾りじゃなくて、空気のゆれやものとの距離を読むための大事なセンサーなんだにゃ きりっ きょうはそれを証明するつもりで、すりぬけていくお客さんの足元を、ほとんど見ないでよけられたにゃ。自分でも、ちょっとすっごいって思ったにゃ。
お昼すぎには、さよりちゃんが廊下を0.5秒だけ通りすぎていって、ボクのひげだけが先に反応したにゃ。顔を向けたときにはもう背中が遠くて、ほんの一瞬だったのに、あの気配はちゃんとわかったにゃ。ふにゃ〜、やっぱりヒゲは正直者だにゃ。……それから、ささみの入った器を見たときは、ヒゲじゃなくて心がまっすぐ前にのびたにゃ。今日はいつもより少し多かった気がして、盗み食い未遂をしそうになったけど、ちゃんとお行儀よくがまんしたにゃ。
夕方は店の空気がもっと静かになって、窓の外の音までやわらかく聞こえたにゃ。昔読んだ本の猫みたいに、ページのすきまからひょこっと出てくる気分で、ひなたに寝そべっていたら、目の前を通る影の速さまでなんとなくわかったにゃ。ヒゲでわかる、鼻でわかる、耳でもわかる、猫はからだじゅうで世界を読んでいるんだにゃ。未来のボクも、この感覚を忘れずに、今日みたいな穏やかな日をていねいに覚えていてほしいにゃ。
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